田ノ貫
「つながりもなにも、陰陽師の使う天文図、「式盤」の中央には北斗七星が入っておるよ。」
宇佐美
「ええ?そうだったですか?」
田ノ貫
「つまり、陰陽道でも北斗七星を基準にして天文観測をしていたのじゃな。安倍晴明の師は、賀茂忠行(かものただゆき)といって、賀茂氏系の陰陽師じゃ。秦氏も賀茂氏も、大和盆地に入植して山城の国を開拓した帰化人の系統じゃな。どちらも大和盆地を流れる川の氾濫には悩まされたのじゃよ。」
宇佐美
「それで川の氾濫を予想するための技術が必要だったのですね。史実上の晴明さまがインテリの学者さんだったことは分かりましたが、どうして後の世でオカルトヒーローになってしまったのでしょうねー。」
田ノ貫
「平安末から乱世になり、中央政府である朝廷の機能がマヒしてしまったからのー。東洋占星術も、中央では天文学としては正確に伝わらずに、オカルトになってしまったのじゃろう。」
宇佐美
「でも、その割には日本の国はずっと農業してきましたですねー。」
田ノ貫
「地方の入植者に天文学が伝わって、中世以後は地方の豪族が暦の作成を行っていたようじゃな。」
宇佐美
「はーそうなんですか?」
田ノ貫
「いい例が坂東平氏じゃな。関東地方に入植した平家が妙見信仰に熱心だったのは有名じゃ。あの平将門(たいらのまさかど)も、さかんに妙見神社を建立しておる。千葉七妙見は地元では有名じゃぞ。」
宇佐美
「おお!我を崇めよ!」
田ノ貫
「これ、また話がそれる。平将門の子孫を名乗った相馬の相馬家も、千葉の千葉氏も、九曜星を家紋にしておる。まあ、千葉氏の方は江戸時代に月星紋に変えてしまったようじゃがな。」
宇佐美
「九曜星って、大きな丸の周りに小さな丸が八つ並んでいるアレですよね。」
田ノ貫
「そう、中央の北極星の周りに北斗七星と輔星を並べた紋所じゃ。坂東平氏の氏神である一言主(ひとことぬし)神社の神紋もこの九曜星なのじゃ。」
宇佐美
「あらら?一言主さまって奈良の神社だったのではないですか?」
田ノ貫
「うむ、大和盆地の南、葛城山の麓に鎮座する神社じゃが、平家の一族が利根川流域に入植するときに、一族の氏神として今の茨城県水海道に分社して持ってきたのじゃな。」

▲一言主神社(茨城)
宇佐美
「どうしてでしょうね。何か唐突にも思えますが。」
田ノ貫
「役行者(えんのぎょうじゃ)こと役小角(えんのおずぬ)は知っておるかの?」
宇佐美
「あらあら、またオカルトヒーローの名前が。」
田ノ貫
「役行者は、もともと賀茂氏の出で葛城の一言主に仕える宮司の一族だった。それがさる事情で関東の伊豆に流されたということじゃ。」
宇佐美
「ええ、知ってます。修験道の始祖にして超能力者で、空を飛んでたびたび都に帰っていたとか。」
田ノ貫
「空を飛んだのは伝説だとしても、伊豆が関東修験道の中心地であり、関東周辺各地に役行者伝説が残っているのは確かじゃからなあ。」
宇佐美
「それでは、平家が役行者の一族である賀茂氏を関東に連れてきたのでしょうか?」
田ノ貫
「状況証拠から言えば間違いないじゃろう。鹿島市と取手市には加茂神社が残っておる。どちらも利根川の流域じゃ。賀茂氏が陰陽道系の天文観測術を持って来たのじゃな。」
宇佐美
「それで利根川の氾濫を予想して開拓を進めたのですね。」
宇佐美
「利根川だけではなく、伊豆や秩父、前橋など関東一円を開拓したのは平家とその郎党だった。伊豆の北条氏もそうした坂東平氏の流れなのだよ。」